『日本の悲劇』木下惠介 斬新な編集と戦後日本の闇を描く意欲作!

さぁさぁ、今回も日本映画の名監督・木下惠介の作品を紹介する時間がやってきましたよー。

今回は3本目、『日本の悲劇』をアマゾンプライムの松竹チャンネルで観ました!

モスコ

タイトルからして暗そうですが、はたしてどんな映画だったのでしょ〜?ワクワク

 
 

原題:日本の悲劇 (1953)

監督:木下惠介

配給:松竹

上映時間:116分

あらすじ

熱海の旅館で働く戦争未亡人・春子の生き甲斐は、英語塾や医科大学に通わせている娘・歌子と息子・清一。春子は、時に闇屋をやり、時に客をとるなどしつつ、爪に火を灯す思いで子供たちを育ててきた。子供たちはそんな母に依存しながらも、母の酔客に対する媚態や惨めな迎合を幼い頃から垣間みて育ったためか、春子に対して冷酷かつ薄情で、内心軽蔑すらしている。清一にはやがて養子縁組の話が舞い込み、本人はまたとない人生の転機をつかもうと話をすすめていく。苦労して子供たちを育ててきた春子の心は穏やかではない。
 

wikipediaより

 

モスコの採点:★★★☆  3.5点 / 5点満点
モンタージュと音の使い方が斬新。戦後の日本人の心の闇に迫る容赦ない木下の鋭い視線の社会派映画

 

 スタッフ

スタッフ

  • 製作:小出孝、桑田良太郎
  • 脚本:木下惠介
  • 撮影:楠田浩之
  • 音楽:木下忠司  

出演者・解説

出演者

  • 井上春子:望月優子
  • 艷歌師・達也:佐田啓二
  • 佐藤:高橋貞二
  • 井上歌子:桂木洋子
  • 赤沢正之:上原謙
  • 芸者・若丸:淡路恵子
  • 赤沢霧子:高杉早苗
  • 一造:日守新一
  • 藤田:須賀不二男
  • 井上清一:田浦正巳

望月優子はこれまで脇役専門だったのですが、この映画で主役に大抜擢。渋い!

戦後、必死で生きたけれど、考えなしに割とだらしない方に流れていっちゃってて、「子供のことばかり考えている」と口では言いますが、実際は全く自分勝手で、ほったらかし。愛情を与えられずに育った子供たちから総スカンを喰らい悲しむ”お春さん”を熱演。

子供たちからなんども「母さんはバカだから…」と言われるなんとも哀れな母親ですが、ラスト近くに息子が久しぶりに「お母さん」と呼んでくれたと涙ながらに喜ぶシーンなど、望月優子の緩急のある演技が素晴らしく、もらい泣きしてしまいました。

どうしようもない人だけど、この望月優子が演じているから、どこか同情できてしまうような、人懐っこさがあるのでしょう。

佐田啓二。旅館に流しで歌いにくる”艷歌師”で、「湯の町エレジー」をなんども歌い、その美声を披露します。奥さんがどうも病気で寝込んでいるようです。

高橋貞二は頑固一徹の旅館の料理長?とにかく威張ってます。

そして威張りついでに、女のことで注意してやったお春さんをボカスカ殴ります。

学校で優秀だったのに、父親が戦死して学校には通えなくなり、料理の道へ仕方なく進んだ男なので、なにかとコンプレックスや負けん気やルサンチマンなどを抱えていそうで、それが暴力になって現れている、そういう設定なんだと思います。この人物もまた日本の悲劇の1つなのです。

そして出た!田浦正巳!笑

なぜ 笑 が付くかと言うと…。

私がこの田浦正巳という役者を初めて観たのは小津安二郎『東京暮色』なんです。

で、そこでの役柄があまりに卑怯なナヨナヨ大学生だったので、非常に印象に残っていました。

で、この間観た木下惠介『女の園』でも、割と似たような役柄だったので、

「彼、こんな役柄ばっかりだったの?」となんかおかしくなったのでした。

で、今回も出てるので、ちょっとどういった役かドキドキして観てみた(大げさ)わけですが…

モスコ

やっぱなんかヤなやつだったですねぇ!

この映画での彼は、なんと母親に「よそのうちの養子になりたいので籍を抜いてくれるように」頼む息子なのです。

彼の生い立ちや育ち方を観ると、それを希望するのもまた止むを得ないことだとは一応納得できるのですが、どうもこの田浦正巳が演じると、そこに冷たくて打算的で自己中心的なものが透けて見えるような気がしてくるのですよね。

要は彼は今の時代にも通じる、現代的な味を持つ俳優さんなのです

いいぞもっとやれ、的にこれからも田浦正巳に地味に注目していきたいと思います!

ちなみにこの作品が田浦正巳のデビュー作になります。

『日本の悲劇』感想

斬新な編集

終戦から10年も経っていない戦後の日本のリアルな姿を、当時の世相や事件などのニュース映像、写真、新聞記事などのモンタージュを交えながら、ある母と2人の子供の辿った悲劇を現在、過去と自由に行き来しながら、容赦なく描きます。

結構な速さやタイミングでパパッと画面が代わったり、斬新なモンタージュが現在⇄過去、現在⇄ニュース映像といった感じで、フィクションとノンフィクションが素早く入り乱れ、そのドキュメンタリー・タッチで観るものを一気に戦後すぐの日本に巻き込み入れます。

その編集の感覚がまったく古くないのです。

音も時に無音になったり、時にけたたましく鳴ったりと効果的に使われています。

あるお春さんの回想シーンでは、何人かでどんちゃん騒ぎをしており、横にいる人も何人か歌っている(つまり口が動いている)のですが、お春さんの声だけしかこちらには聞こえてこないんです。

モスコ

あぁ、人が回想する時って、自分の声しか聞こえてないものだよあなぁと感心しました。

人間の黒さを容赦なく描写

私が一番興味深かったのは桂木洋子演じる長女です。

彼女はとある過去のせいで、誰のことも(特に男性を)信じられなくなっています。

深い傷を心に負っており、その点は同情するのですが、その闇が他の人にどう影響を与えるかのという描写が恐ろしかったです。

彼女は英語学校の教師に一方的に惚れられています。が、彼には妻子があります。

この英語教師を上原謙(加山雄三のお父さん)が演じています。

そして彼の妻がキョーレツなんですね。

この妻を高杉早苗(香川照之と四代目市川猿之助のおばあさん)が演じています。

木下惠介は、この妻がキョーレツな人物であることを英語学校の授業中のたったワンカットで見せます。

座っている上原の後ろからスーッと障子を開けて出てくる妻、お茶を持ってきたのですが、その時、習いに来ている長女にギロリと一瞬目をやるのです。

カメラはそのまままた何もなかったかのように上原謙に戻るのですが、もうそのカットだけで、「あぁ奥さん、疑ってんだな」と観てるこっちもわかるわけです。巧いなぁと思いました。

そこからは桂木演じる長女と、高杉早苗演じる奥さんとが直接バチバチにやりあうシーンがいくつか出てくるのですが、それがまた怖い。

まず子供を連れて、浮気相手と疑っている若い女性(長女)の下宿先へ乗り込む奥さんが怖い。

旦那がそこにいると思って、でも子供連れてってんですよ。

子供の前でも平気で旦那さんのことを「情けない」だの「英語がろくにできない」だのボロカスに言っているので、子供もお父さんのことは「キライ!!」なんだそうです…。

「この子はわたくしだけが好きなんですのよ」

そう自慢気に言っていた奥さんですが、自分の嫉妬にかられて子供をダシにして相手のところに乗り込んで、その相手との言い合いを子供の前で平気でするなど、かなりの毒っぷりなので、もう少し大きくなったら、この桂木演じる長女のようにお母さんのことを見放すようになるんじゃないの?と感じて、そこもなんだか辛い。

なかなか長女の部屋から帰ってこない旦那を取り戻すために、嫌がる子供に窓の外から「お父さん!」と呼ばさせたりもさせてましたしね。サイアク。

木下はこの映画の登場人物たちをこのように容赦なく描きます。

でもね、こんなキョーレツな奥さんに全然負けていないのが、可愛い顔した長女なんです。

印象的なシーンがあります。

長女が本心では男性のことを信じられないため、上原謙のことをそれほど想っていないにも関わらず、あんまり奥さんが意地悪に攻めてくるので、上原と仲がいい風に装って、この奥さんをジリジリさせる場面があります。

目の前に奥さんがいるので、本当は母親からの電話であるのに、さも上原からかかってきているかのように、猫なで声を出したりするのです。

案の定、奥さんは「さっきの電話は誰ですの!」とまんまと逆上するわけです。

しかしそれを長女は面白がってやっている、というより、自分の不幸な過去により精神的にすさんでおり、人のこともどんどん不幸にしてやろうという、どす黒い感情から来てるのが見えて、それが怖いのです。

現に自分でその気持ちに気づき、一旦はニヤリとするものの、ハッとして暗い顔になる、という演出があります。

しかし、実はここで奥さんが知らない悲劇がもう1つ起こっています。

電話の相手は母親でしたが、実は長女が貯金をしていたことを知った母からのお金の無心の電話だったのです。

面白がって猫なで声を演じていた長女の顔がみるみるこわばっていくのが、切なかったです。

長女には何重にも悲劇が重なっていて、なんともやるせない、でも忘れらない印象的なシーンでした。

『日本の悲劇』まとめ

そして、結局、長女は英語教師と駆け落ちしていくわけですが、ここもなんともやるせないんですよね。

やるせなきお成瀬巳喜男のあだな)の作品でないのに、とんでもなくやるせない。

この英語教師がまた、長女の心の傷を癒せる人では決してなさそう。

なぜなら自分のことしか頭にないから。

突然、長女の下宿先に押しかけて「僕の気持ちをわかってください!」と3冊くらい日記を渡してきたりするのです!

モスコ

これ今の時代なら完全にストーカーですよね…コワ。

「僕が幸せにしてみせますよ!」という言葉が虚しく響きます。

こういう情けない男を演じるのが上原謙は巧いですね。

というわけで、どこにも救いがないのです。

唯一、お春の息子代わりではないけれど、ことあるごとに「くにのおっかさんを大事にしなさいよ」と伝えていた佐田啓二と高橋貞二が、お春が亡くなったあと、ラストで「いい人だったよ」と呟くわけですが…。

ここだってね、ただのお涙シーンにしないのが、この映画の木下の意地悪さ。

「俺、悪いことしちゃった。おばさんがくれたお金、くにのおっかさんに干物でも買って送ってやろうって言ってたんだけど、その帰りに、つい呑んじゃったんだ」

by 唯一善良そうだった佐田啓二。

親孝行なことを言う、と泣いてたお春さんが浮ばれません。

お春さんを殴った高橋貞二はただひたすら、うなだれてるし。

どう悔やんでも帰ってこないですからね。

なんともねぇ、やるせない。

このように『日本の悲劇』の木下は徹底してニヒルです。

逆説的に、親孝行の大切さを描いてもいるし、親の方も色々気をつけないといけない、ということを考えさせられました。

タイトル通り、日本の、ある日本人の悲劇だったわけですが、戦後の日本は、もしかするとこういったストーリーはめずらしいものではなかったのかもしれません。

そういった時代の一部分をリアルに切り取り、世相や世の空気と一緒に観せた、これも優れた木下芸術の1つの作品、と言えるでしょう。

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