『オーソン・ウェルズ in ストレンジャー』感想。NETFLIXで観れる唯一のノワール作品

ストレンジャーの3人

原題:The Stranger(1946)

監督:オーソン・ウェルズ

出演:エドワード・G・ロビンソン、ロレッタ・ヤング、オーソン・ウェルズ

2019年7月現在、NETFLIXで観ることのできる唯一のフィルム・ノワール作品にて、極上の一品。

別タイトル『謎のストレンジャー』。

連合国際犯罪委員会に追われているナチスの残党キンドラーという男。

キンドラーに党からの伝言を伝えるためにマイネケという元同僚が偽のパスポートを作り、現在キンドラーがいるアメリカはコネチカットに向かう。

そのアメリカに向かうまでの追跡シーンが、影を多用したなかなかのノワール振りの画作りで、のっけからワクワクしてしまう。

が、その追跡もすぐに終わり、舞台は一変陽光溢れる朝のコネチカットのハーパーという小さな町にバスが到着するシーンとなるが、これが明るい音楽とあいまってさらにワクワクしてしまう。

先程までの緊迫したシーンとの落差で、アメリカって呑気でおおらかで明るくていいとこだなぁと一瞬にして思わせるうまさ。

この何の変哲も無い、小さなアメリカの町で、誰も知らないところでこれから暗い大事件が起きるのだ。きっと。

このバスがバス停に到着するのは、町の時計台や薬局などのある唯一の繁華街(といってもほんとうに店の数は知れている)をぐるりと囲む広場なのだが、このシーンが素晴らしい。

まるでオープンセットかと思わすような、見事なクレーンショットで、実際の小さな町(撮影地はロサンゼルスとソルトレイクとあるので、きっとソルトレイクの方だろう)を俯瞰でぐるりと見せ、ワクワク感をあおる。

人も建物もそんなに多くない、こじんまりとした町並みがいい。

時計台が目印の町の円形の広場ということで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の、マーティの両親が住んでいた頃の街並みを思い出せる。

そうだ、あれは1950年代の話でこの映画の制作年は1946年なのだから、この町に未来からやってきたマクフライが潜んでいてもおかしくはない。

と、想像するだけでも楽しい。

だけどこの町に新たにやってきたのは私たちのマーティ・マクフライではなく、マイネケというナチスの残党と、彼をを追ってキンドラーという男にたどり着きたい刑事のエドワード・G・ロビンソンなのでした。

そして町に着いて早々マイネケとエドワード・G・ロビンソンの追跡劇が始まり、男子校の体育館に逃げ込むのですが、この逃げてる方のマイネケという男が、壁に掛けてある斧を普通に取ろうとするのが恐ろしい。

人を殺めるのに何の躊躇もない恐ろしい集団の男なのだということが一瞬でよくわかります。

そしてマイネケは辿り辿ってようやくキンドラーに会います。

オーソン・ウェルズ

このキンドラーを演じているのがこの作品を演出しているオーソン・ウェルズ。

この映画の彼のクサイまでのギョロ目の演技がいいんですよね、とっても怪しくて。

仮の姿で潜んでる怪しさ感満載です。

そして先ほどのマイネケが斧を取ろうとして恐ろしい男だとわかりましたが、そのマイネケを一瞬にして殺しちゃうほど、このキンドラーはもっと恐ろしい男です。

結婚したての新妻(ロレッタ・ヤング)にも、自分を守るためなら同情を誘う嘘がスラスラと出てきます。

そこに罪悪感などありません。なぜならもともとが最高裁の判事の娘婿になれるという身柄作りのための偽装結婚なのです。

しかも彼は大学で先生もしており、町に潜むサイコパスとしてかなりの知能の持ち主でやり手。危険度が高いです。

演じるオーソン・ウェルズはこれまでに監督1作目『市民ケーン』、2作目『偉大なるアーバンソン家』を撮ってきて、この『ストレンジャー』が監督3作目となります。

そして初めての彼のフィルム・ノワール作品となります。

この作品の翌年に『上海から来た女』(1947)、それから11年後に『黒い罠』という傑作ノワールものを作りますが、この作品も見応え十分の作品となっています。

エドワード・G・ロビンソン

エドワード・G・ロビンソン

刑事を演じるエドワード・G・ロビンソンはこの作品の前にフリッツ・ラングのこれまた傑作フィルム・ノワール『飾り窓の女』(1944)『緋色の町/スカーレット・ストリート』(1945)、ビリー・ワイルダーの『深夜の告白』(1945)などに立て続けに出演。

30年代のギャングものに続き、40年代のフィルム・ノワールという犯罪映画に欠かせない俳優となりました。

この映画ではラング映画でのような優男ではなく、パイプをくわえて見た通りの強面の、でも覆面捜査(というほどでもないけど)なので柔軟に町に溶け込んで犯人をじりじり追い込んでいく刑事を好演し、ピリッと画面を引き締めています。

ロレッタ・ヤング

結婚式のウェルズとロレッタ・ヤング

この作品では、結婚したての夫をどこまでも信じたい/信じようとするよく健気な女性を演じる彼女。

ロレッタ・ヤングといえばフランク・キャプラ監督の初期の隠れた名作『プラチナ・ブロンド』という作品の新聞記者ギャラガーの役が私はとっても好きで、この映画でも彼女の持つどこかイノセントを感じさせる味が良い風に出ています。

恋に目がくらみすぎて、ちょいとおばかさんになっている感じがとてもよく出ているんですよね。

早く気づけ!目を覚ませ!って観客は彼女に本気でじれったくなることでしょう。

その後の展開

いよいよ嘘をつくことに、夫が人殺しだという事実に耐えきれなくなって精神的に不安定になってきた妻を見て、キンドラーは自分の身が危ないと彼女を殺害することを計画します。

その方法は○時に時計台に来てくれ呼び出し、時計台の一番上の方のはしごをのこぎりで切っておき、バランスを崩させ落下させるというシンプルなものです。

その間、キンドラーはアリバイ作りに例の薬局屋で、そこの主人とゲームに興じます。

その時間ごとの計画やアリバイ作りをキンドラー(もしくはウェルズ)がメモ書きしていているのですが、その内容が…

  • 3時25分 マリーに電話
  • 3時30分 薬局へ
  • アリバイ成立
  • 4時 薬局を出発
  • 4時5分 帰宅

と、5分ごとに細かくバーティカルに書かれていて、リストの間はちゃんと線が引かれていて、しかも文字がちょっと丸文字で好みの文字でとにかく丁寧。

およそ殺人計画のメモとは思えないかわいさでツボでした。

そんなお茶目さ(?)もあるキンドラーが一番怖かったのが、時計台に行ったのが、わけあって(家政婦渾身のナイス演技!)妻ではなく、妻に頼まれたその弟だったとわかった瞬間。

なんとこの男は計画通りに行かなくて腹立たしいあまり、その事実を衝動的に妻にバラすのです。

妻はやっとそこで夫の真の恐ろしさに気づきます。「それって私を殺そうとしたってこと?」と。

そして全てをわかり絶望する妻に「弟が死んだのはお前のせいだ!」とさらになじるのでした。

計画通りに行かなかった時のエモーショナルな怒り方が実に怖い。

ラストは時計台でのウェルズ、ヤング、ロビンソン3人のてんやわんや。

時計台の設定を生かして当たり前のようにその高い塔から落ちてキンドラーは死にます。

その時自分が直した時計台のからくり人形に刺される形にのですが、その人形は妻の代わりのような女性の人形でした。

しかし、高いところから落下するシーンでもヒッチコックのように高所にオブセッションを背負い、やたら悪夢的に凝るわけではありません。

人形に刺されるというショッキングさはありますが、実に淡麗に落ちていきます。

まとめ

同じウェルズ演出の『上海から来た女』に比べると、少し稚拙で荒い面もちらほら伺えます。

が、私は小さな町、平和ななんの変哲もないアメリカのスモールタウンに、危険で異質なものが潜伏する話、というのが大好きなんです。

今ハマっているドラマの『ストレンジャー・シングス』もまさにそれ系なのでこれほど好きな部分もあるのでしょう。

そんなわけなので、ウェルズにしてはちょっと見応えが足りない向きもあるかもしれませんが、私は結構好きな作品となりました。

現在のド派手な映画に疲れた方に、本物の雰囲気を味わいたい方におすすめします。

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